2人が本棚に入れています
本棚に追加
うつ伏せになる彼女の背中を、私は消毒液で濡らしたガーゼで優しく拭いていく。
「……いつまで、こんなことする気なの?」
「こんなことって?」
「他人の恋愛に口出すつもりはないけど、今の男とは別れるべきだわ。それか、暴力は辞めてもらいなさい」
「そんなにケガ、酷い?」
「今更気づいたの? あんた、以前骨にヒビが入ってたことがあったの、忘れたの」
「あれは流石に痛かったですね」
まるで他人事のように笑う彼女に、私は目を細めた。胸の中が黒く渦巻いているように感じる。
「三ヶ月もよく付き合っていられるわね。そんなに、その男が好きなの?」
「……先輩、ちょっと怒ってます?」
「怒ってないと思ってるの?」
「えぇー……。でも先輩には関係ないじゃないですか」
私は手を止め、キュッと唇が閉まった。すぐに作業は再開して、薬を塗っていく。
「関係ないけど、心配してはいけない?」
「……心配? なんで?」
「なんでって……」
「だって、他人の心配しても先輩にはメリットがないじゃないですか。時間の無駄でしょう?」
私と彼女では、きっと根本的に考え方が違うのだろう。彼女にとっては、自分と関係ない人間は全て他人なのだ。
最初のコメントを投稿しよう!