傷痕

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うつ伏せになる彼女の背中を、私は消毒液で濡らしたガーゼで優しく拭いていく。 「……いつまで、こんなことする気なの?」 「こんなことって?」 「他人の恋愛に口出すつもりはないけど、今の男とは別れるべきだわ。それか、暴力は辞めてもらいなさい」 「そんなにケガ、酷い?」 「今更気づいたの? あんた、以前骨にヒビが入ってたことがあったの、忘れたの」 「あれは流石に痛かったですね」 まるで他人事のように笑う彼女に、私は目を細めた。胸の中が黒く渦巻いているように感じる。 「三ヶ月もよく付き合っていられるわね。そんなに、その男が好きなの?」 「……先輩、ちょっと怒ってます?」 「怒ってないと思ってるの?」 「えぇー……。でも先輩には関係ないじゃないですか」 私は手を止め、キュッと唇が閉まった。すぐに作業は再開して、薬を塗っていく。 「関係ないけど、心配してはいけない?」 「……心配? なんで?」 「なんでって……」 「だって、他人の心配しても先輩にはメリットがないじゃないですか。時間の無駄でしょう?」 私と彼女では、きっと根本的に考え方が違うのだろう。彼女にとっては、自分と関係ない人間は全て他人なのだ。
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