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「背中は終わり。次は前ね」
彼女は座り、私と対面する。
背中ほど目立たないとはいえ、噛み跡やミミズ腫れができていた。そこにも薬を塗っていく。
「可哀想ね」
「これは私が望んだことなので、同情されるようなことでもないですよ」
「傷のこともそうだけど、あんたのことよ」
「私?」
「誰と恋愛しても長続きしないのは、あんただけに問題があるわけではないわ。相手も、普段自分が何を思っているのかを伝えていないのよ。恋愛に限らず、人間関係というのはお互いの悪いところも良いところも補っていくもの。それを誰にも教わらなかったのね」
「……先輩は私と付き合ってた相手の気持ちがわかるんですか?」
「今の彼氏に聞いてみたらいいじゃない」
私は彼女の身体に包帯を巻いていく。簡単に解けないように固定して、治療を終える。
「はい、お終い」
私は立ち上がって、救急箱に道具を直す。
「……先輩が私の彼氏だったら良かったのに」
「何それ」
「だって、そしたら私の悪いところも良いところも教えてくれるんでしょう?」
「……あんたが恋人だったら、きっと私は寂しくて泣いているかもね」
「寂しくなんてさせませんよ。ずっと一緒にいます」
「側にいるだけじゃ、寂しさは埋まらないわ」
彼女は迷った子供のように見つめてくる。着替えることも忘れてしまうほど、彼女は何かに思い詰めているようだ。
私は彼女にシャツを着せて、ボタンを留めていく。本当に子供の世話をしているような気分だ。
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