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イナズマ文庫の編集部は騒がしくなっていた。宮元は仮眠するといって離れていたが、編集長は怒りとため息で、新人をいびり続けていた。喫煙所では宮元の同僚達が口々に宮元の机の上について残された資料について話していた。
「あいつ、あの作品落としたよ。」
「出世欲がないね。編集長の親戚を落とすなんて。」
「あいつのせいで、今日は一日ご機嫌斜めだねえ。」
「こっちまで迷惑だっての。」
宮元は仮眠室に行くでもなく、屋上に向かった。携帯電話を取り出し彼は電話を始めた。
「もしもし、水野・・・。今日やっと常田に会えたよ。」
「・・・宮元君。こんな朝に電話しやがってと思ってたけど、出てよかったわ。」
「ずっと、逃げていたけど、やっと、本当に待たせてしまったよ。ごめん。」
「馬鹿ね、ほんと男って。」
「あと、今度墓参り行くから、一緒に来てくれないか。」
「じゃあ、そのあとおごってくれたらね。」
「ああ、ありがとう。」
「それじゃ。」
電話を切った宮元は、煙草を取り出して、火をつけた。煙を蓄えて空を仰いでから、彼は空を目を閉じた。それからゆっくりと吐き出し、また目を開いてやっと声を出した。
「じゃあな。」
それは物理的にはわずかな時間だったが、宮元にとってはまるで十年以上の月日だった。常田のことを思い続けいてた十年だったかもしれない。
常田を真似して吸い始めて、常田がいなくなったから止めていた煙草。
久しぶりにアイツを思って吸った煙草。
思った以上に爽やかで旨かった。
宮元は屋上からの階段を下がりながら作品のプロットを練り直していた。
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