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「最近はライトノベルにせよ純文学にせよ、技巧頼みだったり、流行り任せだったりでパッとしないな。転生モノとか天才科学者とか見飽きたよなあ。」
「は、はあ。」
イナズマ文庫の会議室では2ヶ月に一度行われる新人賞の選定が行われていた。今回宮元はゲスト審査員と共に選定の責任者を託されている。業界最大手とはほど遠い彼らイナズマ文庫の目標は、新人の青田買いによる一発逆転だ。インターネット投稿サイトを運営し、毎回100作品以上の応募から次の才能(ヒット商品)を探しているのだ。
「宮ちゃん、俺はね、もっと尖ったもんがほしい。だから目先の利益の為に流行りに乗らずに、ダイヤの原石を見つけてほしいんだ。」
編集長のしつこい押しを、宮元は適当に流していた。彼としても当たりを見つけたいが、そんなものが転がっていることは滅多にない。だからたいてい一番まともなものを選ぶ。それが毎回のことなのに、やたら今回はうるさい。
「そんなときに、俺はね、この文にビビッド来た!だからね、宮ちゃんが選考委員だけど、こいつは俺のね、長年の経験からして、持ってるやつなの!」
A4の紙に印刷されたその応募原稿にはすでに目を通していた。内容は突飛だが文体も落ち着かず、描写も足りない、つまり雑な作品だと評価していた。
「これ、ですか…。」
「あれ?気づかなかった?宮ちゃん?らしくない!持ってるよ。コイツは磨けばぐっと良くなる。まだ10代で伸びしろも凄いよ!」
年齢を言われて、宮元は思わず溜息が零れそうになった。基本的に彼は年齢選考は後にして作品を見るようにしていた。余計な情報は入れたくないという建前で、本音は自分より若い人の活躍を見たくないからだ。しかしそう言われてしまうと今度は逆に雑さが素直さや純粋さに見えてきてしまい、いかにもいい作品だと思えてしまう。
「分かりました。これも2次選考に加えて、もう一度先生と話しておきます。」
返事を聞いた編集長は気持ち悪いほどお世辞を並べた後、特に宮元を手伝うことなく部屋を出ていった。
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