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十一月二十三日。新嘗祭の夜のこと。
冬島司朗が駅舎の改札を抜けると、空にはぽっかりと満月があった。首筋を抜ける冷たい風が心地よい。
「見事だな」
冬島はまっすぐ帰宅するのをもったいなく感じ、遠回りして帰ることにした。どこまでも歩けそうなほど上機嫌なのは、おもに右手に下げた風呂敷包みのためである。
街灯のない路地裏に満月は惜しげも無く光を落としている。
妙に明るい夜道をしばらく歩いていたが、ふと背後に気配を感じた。
何気なく振り返ってみればブレザー姿の女子高校生がいるではないか。
思ったよりも近くにいた人影に冬島は驚いた。しかし彼女の方がより驚いたようであった。視線が合うなり華奢な肩をびくりと震わせる。
「ごめんなさい」
鈴を鳴らしたような声で謝罪される。なぜ謝られているのか不明だが、冬島は悪いことをした気分になった。
「こちらこそ・・驚かせて悪い」
気まずい雰囲気に軽い会釈をしてその場を離れようとしたが、手に持っていた風呂敷包みをぐいと引かれる。見れば、細い十本の指が風呂敷をつかんでいるのだ。
「え?」
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