in seed

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 ――弟が出来たのは高二の時だった。 「塔子ー、塔子の学校の遠山先生って知ってる?」  お風呂上りにビールを飲んでいた母親の唐突な言葉に皿洗いの手を止める。 「知ってるけど?」  直接教えてもらったことはないけれど可も不可もなさそうなカンジのおだやかな雰囲気の先生だ。  それがどうしたって言うんだ? 「遠山先生の息子さんが塔子と同じ学校にいるって知ってる?」 「知ってるよ。同じクラスだし、割と仲良いし。……で、それが何?」  このままだとぐるぐると話が遠回りして結局本題が何かわからないままになってしまう気がする。  いつの間にやらビール三本目をからにしてるし……飲みすぎだ。  四本目の缶ビールを開け半分ほどを飲み干したあとでじっとこちらを見つめる。 「塔子。ママ、結婚しても良いかな?」  意を決したように言った母親の言葉の意味が一瞬わからずに固まる。 「……え? 再婚するってこと?」  酸素不足でかすれてしまった声でたずねる。  こくん。と小さな子どもみたいにうなずく。  ちょっと、待って。つまりさっきの前ふりは。 「なに、それは遠山先生とってコト?」  再び首がタテにふられる。。 「…………ホンキ?」 「ダメ?」  かわいらしく、でも真剣な目でこちらを見つめる。  とりあえず泡だらけのままの手を洗い丁寧に水気をふき取る。  そして母親と向かい合う。 「ダメ」  半分残っていたビールをもらい飲み干す。にがい。  しょげた顔。でもやっぱり、って思ってるようにも見える母親にむかってタメイキと一緒に吐き出す。 「って言うわけないでしょ。いーんじゃないの?」  いつまでもどこか子どもっぽいところのある母親には遠山先生みたいなおだやかな感じの人があってる気もするし。 「ホントに?」 「ま、知紀と兄弟になるっていうのは問題は無きにしも非ずって感じだけど」  ぼそりとつぶやく。 「やっぱり反対、だよね?」  簡単に落ち込む。わかりやすいなぁ。 「してないって。知紀、いいヤツだし仲良くやっていけるんじゃない?」  安心させるように笑ってみせると半泣きの表情でテーブルの上にあった手を握ってくる。汗ばんでる。 「塔子、好きー。ありがとう」 「ん」  うなずいてぎゅっと手を握り返した。
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