風が吹けば桶屋が呆ける

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「――バっカ野郎ぉ~っ! な~にが働き方改革だあ~! な~にが高度プロフエッショナルだあ~っ!」  某ブラックなIT企業でSE(システム・エンジニア)をしている俺――桶屋守(おけやまもる)は、法律改正…否、改()によって、「そういの全然OKになったから」と、ほぼ不眠不休で四日間働きづめにさせられたその日の帰り、もうほんとやってららんねえ…と深夜までヤケ酒をかっ食らい、寝静まった街に暴言を叫びながら千鳥足で歩いていた。 「あんな真っ黒会社、ウィルス仕込んで機密情報漏洩させてやる…う、うえっ……うう…気持ち悪ぃ……あすがにちいとばかし飲み過ぎたな……」  しかし、やはりヤケ酒というのは良い飲み方ではない。たとえ刹那の憂さ晴らしになったとしても、やがて酔いが醒めれば、その後に待っているのはなんら変わらぬ現実とひどい二日酔いばかりである。 「…うぃ~……とりあえずなんか飲んどくか……コンビニ、コンビニ……ん? 行くまでもなかったか?」  このままだと明日ヤバそうなので、二日酔いに効くドリンクでも飲んでおこうかと付近にコンビニを探してみたのだが、すると、ちょうど通りかかかった公園に置かれる白い自販機が視界の隅に映った。 「でも、自販機だとそういうのないかな……ウコン、ウコン……ん? なんだこれ?」  渡りに船と公園に寄り道し、夜の闇に光る自販機のディスプレイを物色する俺だったが、捜している商品は見つからなかった代わりに、見たこともない栄養ドリンクの瓶に目を奪われる。  それは「スーパー藻活(もかつ)ドリンク」というラベルの貼られたもので、190円というちょっとお高価(たか)めな値段表示の上には「二日酔い、風邪、五月病、未知の病…何にでもよく効く超・藻の力」とずいぶん強気なP.O.Pが付けられている。 「なんか、いかにも怪しげな代物だけど……ま、そんなに言うんなら試しに飲んでみるか……」  世の(ことわり)として「何にでも効く」というものはだいたい「何にも効かない」ものと相場が決まっているのであるが、アルコールで正常な判断能力を失っていたこともあり、ちょっと興味を持った俺はそいつを飲んでみることにした。
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