風が吹けば桶屋が呆ける

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「なになに……クロレラを超える新種の藻『スーパークロレラX』を大量配合……」  早速、購入して自販機の明かりでラベルを見ると、そんな説明書きが記されている。販売元は「ツブラヤ製薬」というとこらしい。 「やっぱちょっと青クサいけど確かに二日酔いに効きそうだな……んじゃ、いただきますと…」  キャップを開けた瞬間、ふわっと鼻を突く青物(・・)独特の臭いに顔を歪めながらも、むしろその効果を期待しつつ、俺は瓶に口をつけて一気にあおる。  だが……。 「ブゥゥゥゥゥゥーっ…!」  あまりのその苦さに、俺はクジラの潮吹きの如く、真緑の液体を夜空に向けて一気に噴き出した。 「うえっ…コホコホ……な、なんだこの苦さはっ!? こんなの、とても人の飲むもんじゃねえぞ! 何考えてんだ、この開発者は!?」  ただでさえ会社への不満と飲みにすぎによる不快感があるところへもってきて、そのあまりにも人間の味覚を度外視した開発コンセプトに、俺の中でこのドリンクに対する怒りがふつふつと湧き上がってきた。 「こんなもん、飲めるかぁーっ!」  その通勤の折に前を通る公園の裏は、街中を流れる「天村川(あまむらがわ)」という幅5mほどの川に面している……俺は怒りに任せて振りかぶると、まだ半分以上も中身の残ってるその瓶を川に向けて思いっきり放り投げた。  殺人的な不味さを誇るその栄養ドリンクを入れた小瓶は、川沿いに設置されたフェンスを飛び越え、トプン…と微かな音を立てて黒い水面の底へ沈んで消える……。  無論、ゴミのポイ捨ては良くないことだが、まあ、酔っ払いゆえの過ちと御容赦願いたい。 「うえぇ…あまりの不味さに酔いも醒めたぜ……もしかして、こういう効果を狙ってんのか?」  そうして、また別の種類の気持ち悪さと引き換えに、結果的に酒が抜けて頭のスッキリした俺は、口内に残る苦みと青クサさを感じながら、再びとぼとぼと家に向かって歩き出した。  まさか、この時捨てたそのドリンクが後にとんでもない事態を引き起こすなどとは夢にも思わずに――。
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