風が吹けば桶屋が呆ける

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 その名前、明らかに聞き憶え…いや、見憶えがある……忘れたくともあの想像を絶する苦みとともに大脳新皮質へ刻み込まれた、いかにも適当に付けられたとしか思えないその藻類の名称――それは、先日の夜に俺が川へ投げ捨てた、あの謎の栄養ドリンクに入っていた主要成分だ。  ……その原因といい、その発生場所といい……それに今、思い出したがあの青クサい臭いだ……もしかして、俺があれを放り込んだことでアオコが起こったとでもいうのか? いやいや、まさか、そんなバカなことが……。  偶然の一致にしてはできすぎている……まさかとは思ったが、俺は仕事帰りに公園に寄って、再びあのドリンクを自販機で買ってみた。  そして、街灯の下でまじまじとラベルの裏に記された細かい文字を読んでゆくと……。 〝(※注意)絶対に日光の当たる場所で保管しないでください。急激に増殖して瓶が割れる恐れがあります〟  なんて文言が〝注意〟という割には目立たず控え目に書かれている。 「…てことは、日の当たる川になんて捨てたら……」  どうやら十中八九、俺のせいで間違いないらしい……捨てた栄養ドリンクからアオコが発生するなんて、いったいどんな奇蹟だ!?  そのありえない偶然の産物に呆れ返る俺だったが、現実問題、アオコは夜間呼吸による水中の酸素欠乏と藻類の出す毒素によって、その水域の魚や水草が全滅するなど、自然環境に大きな悪影響を及ぼす。  もっとも、そうなる前に行政が駆除に乗り出すだろうが、それにもそれなりのお金がかかることはもちろんだ。  万が一、その駆除費用の賠償を要求されたりなんかしたらたまったもんじゃない!  これは、あくまでも知らないふりをしていよう……。  このネタを誰かに話したいという思いも多少なりとあったが、俺はこのことを誰にも話さずにおくことにした。  だが、その翌日、事態はさらなる展開を見せる……。 「い、色が変わってる……」  やはり気になって、また出勤途中に寄ってみると、水面の色は緑から赤茶色に一変していた。  周囲に漂う鼻を突く悪臭も、青クサいものから生グサい腐敗臭へ変わっている……これは〝赤潮〟のそれである。  つまり、今度は緑色の藻類に代って、赤色の動物性プランクトンが大量発生したというわけだ。
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