池の鯉

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 案の定、数日後に学校から帰ってみたら有が長い木の枝か何かを池に突っ込んで、鯉を追い回して遊んでてね。生き物をそんな風に苛めるもんじゃない、と止めたんだけど、全然言うことを聞かない。お祖母ちゃんが言ってた話も出してみたけど、やっぱり信じちゃいなかった。結局母さんが見つけてどやすまで、有はずっと鯉を突き回してたな。  その夜はお決まりの両親の説教を食らって、有は不機嫌に床に就いた。  ここまでは、我が家ではありふれた光景だった。  翌朝目覚めた時、不思議な感覚に襲われたんだ。今さっきまで見ていた夢に何か大切なものが現れたのに、目覚めた途端忘れてしまったような。大事なものを昨日失くしてしまったことを目覚めと共に思い出したような。  落ち着かない気持ちのまま朝食を食べた。そして食べ終わる頃になっても、有が起きてこない。  僕は母さんに訊いた。有は身体の具合でも悪いのかって。  そうしたら母さん、心底不思議そうな顔をして言ったんだ。  ──有、って誰?って。
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