鶴の恩知らず

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 おかしいと思う。このコンクリートジャングルで鶴が罠にかかっているなんて、これはおかしな出来事だ。だから、これからもう一つおかしなことが起きても、それはむしろおかしくないんじゃないか。  つまり、何が言いたいかっていうと。  恩返しくるんじゃないのこれ。だって、めっちゃ見てたし。顔覚えてたんじゃないの、あれ。お辞儀もされたし。絶対恩返しのやつだよ。  鶴の恩返しなんて、幼い頃に読み聞かされたくらいだけれど、あらすじくらいはわかる。人に化けた鶴は美少女だったと記憶している。そして、その美少女は助けた人の家に住むようになると記憶している。……美少女と一つ屋根の下と、記憶している。  それから数日、僕は部屋をピカピカに掃除して、来客を逃さないよう外出を控えて待っていた。  シミュレーションもばっちりだ。美少女は自分の正体がバレると出て行ってしまう。ならば、しらばっくれてやりましょうじゃありませんか。部屋、決して覗きません。そもそも、女の子の部屋を覗くなんてサイテー! まあうち、ワンルームだけど、全然大丈夫。機織り? とかする間僕トイレ居るし。  すると、とうとうインターホンが鳴った。紛らわしい思いをしないよう、ここ数日はAmazonで何も注文していない。宗教勧誘は先週断ったばかりだし、NHK受信料は払っている。急に訪ねてくるような人もいない。「会いたくて、来ちゃった」と言ってくる彼女は残念ながら無い。でも、その代わり、これがきっと美少女だ。そう思って、僕はドアを開けた――。
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