鶴の恩知らず

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「おう、兄ちゃん。この前は世話になったのう」  オールバックにサングラス。スーツ姿だが、ネクタイは無し。ワイシャツのボタンが上から2つも開いている。僕は扉を閉めた。 「おう待てゴラァ、開けんかい!」  ドスの利いた声が聞こえる。 「ヤクザじゃん!」  こんなの聞いてないぞ、美少女はどうした!? 「いるのはわかってんぞオイ」  そりゃ今出たからね! 僕は慌ててスマホを探す。 「け、警察、警察……」 「あ、ちょっと待てやぁ」  扉の向こうから声がする。あった、スマホ! 「待てませんよ!」 「ちょっ……、おい、まっ。わかったわかったから。いったん話聞いて、ね? ね? 警察の人も忙しいから」  ヤクザの声から凄みが消え、情けない声が聞こえる。あとは通話ボタンを押すだけ、という状態にして、一度手を止め、様子をうかがう。 「……やめてくれた?」  ヤクザの声は震えている。このヤクザになら強く出られる気がする。それに、気になることを言っていた。「この前は世話になった」とは、鶴を助けたことを言っているのか? 「何の用ですか?」 「おう、やめてくれたか……」  ヤクザの声に安堵の色が混ざる。そして、咳払いした後、ドスは聞かせていないものの、オラついた口調に戻して語った。
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