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「兄ちゃん、こないだ罠にかかった鶴助けたよな」
やっぱり、鶴の話だ。僕はチェーンをかけて、用心しながら扉を少し開けた。ヤクザは目の前の策にもたれかかって俯いている。
「まあ」
何を言われるのか分かったものじゃないので曖昧に返事をしながら、改めてじっと見る。どう見ても美少女ではない。どう見てもヤクザでしかない。頼む、このヤクザが鶴だなんて言わないでくれ。
「あの鶴……ここへ来とらんか?」
「いやあ、来てませんねえ」
「ホントか! しらばっくれとんちゃうよなあ!?」
「近い近い怖い怖い」
「あー、スマホ構えないで! 悪かったから!」
近づいてきたヤクザがまた距離を取る。この人一々顔が怖いよ……。
しかし、幸いこのヤクザが鶴である説は否定されたようだ。
「な、何なんですかあなたは一体」
「おう、これは失礼した」ヤクザは身なりを正し、続けた。「ワシはトラというもんやぁ」
トラ。虎を助けた覚えはないけれど。
「この前世話になった、と言うのは?」
「兄ちゃんにはあの日、ひどい目に遭わされたからのぉ」
ヤクザが凄む。怖いからやめて。
「そんな、身に覚えがありませんよ」
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