side.K

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左手のスマホをぎゅっと握り締め、目を閉じる。 「・・・もういい」 いつもより低い声が出た。 『・・・え、』 あ、先輩ビックリしてる。 すぐカッとなるのが俺の悪い癖だ。 一瞬僅かな理性が働いたが、膨れ上がったこのモヤモヤはもう抑えることができなかった。 「・・・どうせ一緒にいたいって思ってるのは俺だけなんだろ!」 つき合い始めて半年、つまりは先輩が大学へ進学してから半年。その間に会えたのは夏休みに一度だけだ。 覚悟していたつもりだけれど、遠距離生活は予想以上に辛いものだった。 先輩が第一志望の大学に合格したって聞いたとき、おめでとうって言葉がすんなり出てこなかった。代わりに口をついて出そうになったのは、「行くな」。 そんな自分に驚いて、よくよく我が身を振り返ってみれば心当たりはわんさかあった。 朝から晩までいっつも先輩の事ばっか考えてて、学校で先輩を見かければすっ飛んで話しかけに行って。 そばにいるとなんかあったかい気持ちになるし、先輩と過ごす時間がホントに心地良かった。 先輩が美術部の女子から告られた時も、教室で仲良い友達とじゃれてんの見た時も、やけにハラハラしたりモヤモヤしたり・・・。 あぁなんだ、そうか、と腑に落ちた。 いつの間にか恋に落ちてた(しかも男に)自分にそりゃ驚きはしたけど、時期も時期だしグズグズしてたら先輩は遠くに行っちまう。翌日、俺は先輩に告白した。 先輩は戸惑ってはいたけどNOとは言わなかった。 それから俺は先輩の卒業まで毎日気持ちを伝え続け、最後は半ば言い包めるようにして何とかOKを貰ったのだが、その喜びに浸る間もなく先輩は二つ隣の県へ引越して行った。 大学生になった先輩は、授業やバイト、初めての一人暮らしと多忙ながらも楽しく過ごしているみたいだった。 俺の知らない、先輩の新しい生活。 大学やバイト先には可愛い女の子も格好いい男もいっぱいいるだろう。 忙しくしてる先輩の負担にはなりたくないけど、やっぱりどうしても不安は消せなくて、とにかくマメに連絡した。 「会いてーなぁ、先輩もでしょ?」 「好きだよ、先輩も俺のこと好きだよね」 「俺の声、聞きたかったでしょ?」 重たくならないようおどけた感じで問いかけると、先輩はいつも苦笑しながら答えてくれる。 『あぁ、そうだなー』 夏休みにやっと顔を見られた時は安心した。 久しぶりに会えた嬉しさのあまりギューッと抱きしめたら、先輩も照れくさそうに笑ってて、そん時初めてキスした。 もっと一緒にいられたらいーのになぁ。そんな気持ちは日に日に募っていく。 俺もバイトして金貯めて先輩に会いに行く!って言ったら、受験生が何言ってんだ!と叱られてしまったけど。 そこで俺は志望大学を変えて、先輩と同じ大学を受けようと考えた。そうしたらまた近くにいられる。先輩も喜んでくれるかも、って思ったんだ。 だけど、 『そんなの駄目に決まってるだろ』 なんで? 同じ大学ならいつでも会えるじゃん。 なんなら一緒に住んだっていいし、二人で過ごせる時間がたくさんできるのに。なんでダメなんだよ? 会いに行くのもダメ、同じ大学受けるのもダメって。 じゃあ俺達ずーっと遠距離のままなのか? 食い下がる俺と譲らない先輩の押し問答が続き、俺は肝心な事に気づいた。 先輩は、俺と同じ気持ちではない。 俺の勢いに圧されて、断りきれずつき合ってくれているだけなんだ。 俺だけが、一方的に、恋をしている。 ・・・せっかく新しい環境で楽しくやってんのに、好きでもない後輩が大学まで追いかけて来たらそりゃ迷惑だわ。 先輩ホントはドン引きしてたのかな。 LINEとか電話とかすんのも面倒くせぇと思ってたのかな。 俺に会いたくないから今まで一回しか帰って来なかったのかな。 キスなんかされて、気持ち悪かった、よな。 「先輩、好きだって言ってくれたこと、ないもんな・・・」 『・・・は、』 「今まで悪かったよ。無理させて、いっぱい振り回してごめん」 先輩きっと困ってたんだよな、優しいからなかなか言いだせなかっただけで。 「いろいろ嫌な思いさせて、ごめん」 あぁ、俺ダメだ、 なんか、もう。 「先輩、   ・・・別れよう」
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