悶絶

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「これはヤバい、ヤバ過ぎる……」 さっきから私は俯いて掌で顔を隠している。 親しかった従姉妹が若くして病気で亡くなった。 まだ幼稚園の子供が後に残され、旦那さんも沈痛な表情を 浮かべている。 前の席には娘に先立たれた伯父さんと叔母さんが茫然と 座っている。 これ以上無いくらいに悲痛な葬儀。 その中で、司会者のオバちゃんの声が会場に響く。 「……夜空を見上げますとカシオペア座。星の瞬きは 亡き故人がまるでウインクをしているかの様」 「瞼を閉じれば家族で旅行した時の故人の姿が浮かびます。 あの天使の様な笑顔がもう見られないかと思うと、 目尻から涙がツーッと一筋流れ落ちて参ります」 「ああ、なんと人生は儚く、そして無情なのでしょう。 出来ることならあの人にもう一度会いたい。そんな想いを ぐっと堪えながら、ただかすみ草を見つめる毎日」 ちなみに葬儀場は普通の市営葬儀場。このオバちゃんは 従姉妹とはまったく面識無し。 本人は笑わせようとしている訳では無く、出席者の涙を誘おうと しているのだが……最初の「カシオペア座」でもはや悶絶。 気持ち良さそうに語る司会者。焼香の順番を待ちながら太ももを ギューッとつねって拷問に何とか耐える私。 あれ以来、葬儀に参列する度に「カシオペア座」が頭に浮かんで 太ももをギューッとつねる羽目になったのでした。 ちなみにこの話、ノンフィクションです。 いやあ、ホントにヤバかった。
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