第1章

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第1章

この世の中で1番価値があるのは女子高生だ。 彼女たちは日本中の全ての人の上に立っていて、彼女たちの前ではくたびれた大人なんて何の価値もない。 加齢臭のしそうなおじさんも、綺麗に着飾ったOL も、彼女たちの「ダサい」という笑い声の前ではひれ伏すしかない。 「人生経験もろくにない若造が」なんて言葉は彼女たちに何のダメージも与えない。 だって彼女たちが世界の中心だから。 ダサいかダサくないか、ウケるかウケないか、移り変わりの激しい彼女たちのその価値観が唯一の指標なのだ。 男子高校生にも、女子中学生にもないそんな強さが彼女たちにはある。 そんな女子高生が大勢いるテスト前の駅前のマクドナルド、時間は19時30分。 「見て、あのおじさん1人で食べてる~。可愛い~」 1人でマックを食べるおじさんが「可愛い」はずもなく、明らかに侮蔑の入った視線で無遠慮に人を指さして笑う権利は彼女たちにしかない。 そんな店内で、うっかりするとこちらも笑われる側になってしまうお1人様の私は黙々と口を動かした。 クーポン利用で190円のポテトを3人でシェアしている女子高生に私が勝てることと言えば、こちらはエビフィレオのセット、しかもパティ2倍という経済力だけだ。 そんな唯一のことさえも、向こうからしたら何にもうらやましくはないんだろうけど。 彼女たちにしてみれば、ちょっとお金を持ったおばさんのエビフィレオセットなんかより、友達とおしゃべりしながら食べるポテトL(3分の1)のほうがよっぽど高級だ。 世間では若者に分類されるはずの私、22歳、社会人1年目もあと半年の私なんてただのおばさんで、あの子たちからしたら憧れでもなんでもない。 自分が笑われていないか、周りの女子高生の会話に聞き耳を立てながらひたすらハンバーガーを口に含んだ。 しかし、そんな心配をする必要もないくらい彼女らは私なんかに興味はないみたいだ。 空気。この世界の最高身分の前で、その盛りを過ぎた私は完全に空気だ。 自分がその身分だったころは、気づきもしなかった。 離れて初めて気づくのだ。あのころの私たちは最強だったのだと。 そして、もうその力はどんなに願っても戻っては来ないのだと。
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