恋だなんて呼べない何か

第1章

馬鹿にされそうだけれど、自分の中のルールとして譲れないので、小さな声で「ごちそうさまでした」と呟いて席を立った。
あんな場違いな空間はとっとと立ち去るに越したことはない。
必要以上に疲れた気がして、大きく深呼吸をした。

いい加減自炊再開しないとな。

スマホでレシピ検索をかけながら家に向かって歩いた。
駅近で、こんな不用心な歩き方をしても今のところ何も起こらないような場所に家を借りさせてもらえている私も、きっとずいぶん恵まれている。

日課はツイッターとインスタグラムのチェックで、家にいる時間のほとんどの時間をＳＮＳに費やしているといっても過言ではない今日この頃。
ベッドに転がりながらまたインスタを開いている。
浪人して大学に入った友人や後輩たちの投稿は相変わらず眩しい。
「大学生は人生の夏休み」なんて言葉に授業が多くあった１、２年生のころは怒ったこともあったけど、週１日しか大学に行くこともない4年生はどう考えても大いに人生の夏休みだ。
卒論を後回しにして後々困ることになるところも今考えると似ている。

流し見ていたストーリーの中に気になる投稿を見つけ、ふと動画を止めた。

『最近、みんなに会いすぎて投稿頻度高めになっちゃう』

ハートのスタンプが押されたその投稿は明らかに「みんな」なんかではなく男と出かけている動画だ。
かろうじて男の姿は映っていないけれど、伸びる影は明らかに2人だし、シルエットも男。
周りにアピールしたい気持ちが伝わってくる。