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追求をかわすようにしおんは言って、龍郷の髪をしぶしぶ撫でる。龍郷の髪はしおんから見れば憎たらしいほど真っ黒だった。いっそひっぱたいてやろうか、とも思ったが、面倒なことになりそうだなと考え直す。黒さから受ける印象とは裏腹に、手のひらに触れる髪の感触はやわらかい。
その瞬間、なにかが頭の中で小さく弾けた。違和感とも呼べないような、ごく微かな、飛沫のような感慨が。
「――?」
「どうした?」
ほんの微かな戸惑いだったのに、龍郷が敏感に気がついてこちらを見上げてくる。
「別に」
「じゃあ、撫でろ。早く」
だからなんでそんなに偉そうなんだよ――龍郷には見えないのをいいことに、しおんは思い切り眉根を寄せて、龍郷の頭を再び撫でた。
いつだったか、こういうことをした気がする、と思いながら。
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