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「まずは歌ってみましょう」  教師の声に合わせて、みな一斉に歌い出す。一方でしおんは歌い出しを逸してしまった。少年が隣の少年と目配せを交わし、目だけで笑い合っている。  ――くそ  途中から混ざろうにも、知らない歌なのだ。いたずらに唇をわななかせただけで終わった。  どうせもう笑われているのだし、無駄なあがきをすることはない。しおんは諦めてじっと耳を傾けた。  ピアノの音を聞くことは苦痛ではない。むしろ音だけなら好きだと思う。 それは自然としおんの中に入り込んでくる。 流れ込んでくるものをじっと取り込んでいるうちに、旋律のくり返しに気がついた。孤児院で嫌々歌っているときには気がつかなかったが、曲というものはどうもそういう作りになっているようだ。いくつかの心地よい塊がくり返されて、気がつくといつの間にかもっと大きな塊に包まれている。  心地良いそれに身を任せると、歌声が唇からあふれ出た。  すると今度は、旋律のほうからしおんの声に寄り添ってくる。     
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