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歌う?
ああ、そうだ、ここは音楽隊の入隊希望者を募る場所だった。うろたえる劇場の男たちとは違う落ちついた声音は、しおんにもつかの間冷静な思考を取り戻させた。
「いや、あの子供は」
誰かが声の主を諫めている。
「大変申し訳ありません。すぐにつまみ出しますので」
「俺はそいつに訊いてるんだ。――歌わないのか?」
目はまだ光に灼かれたままで、声の主の姿は見えなかった。でもわかる。そいつが客席で足を組み、こちらを面白がって見ているのが。
人になにかを要求することに慣れた声音だ。自分のような子供に大人がそんな口のきき方をするのはよくあることだった。
――でも、
違和感を覚えて、しおんはまだ見えない目をすがめた。今まで散々受けてきた、そんな扱いとも少し違うこの感じ。
「なんでもいいぞ。とにかく声を出してみろ」
男の声がそう重なって、しおんの中で違和感の正体がやっとはっきりと形を結んだ。ただ頭から要求されているのではない。命令されているのではない。
試されている。挑まれている。
目をそらされることに慣れたこの容姿を、まっすぐに見つめてくる奴がいる。
いつもならなんでもさらりとかわして逃げたはずだった。
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