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しおんは今日、オムレツライスというものを頼んでいる。朱色の飯に最初はぎょっとしたものだが、周りを包むふんわりとした卵といっしょに口に運ぶと、塩気とほんのりとした甘み、それから酸味とで手が止まらなくなった。
喰う物を断るなんて贅沢、ほんの少し前までなら考えられなかった。
生活が変わったことを最も実感する瞬間かも知れない。
「ちょっとずつ全部喰えたらいいんだけど」
「ほら、やっぱり欲しいんだろう。――いや、待てよ」
からかうように言ってから、龍郷は不意に黙った。ナイフを入れたビフテキもそのままに、なにやら考え込んでいる。
仕事に関するアイデアを閃いたとき、龍郷はこうして突然外界とのつながりをすべて断ち、思索の世界に入る。まるで、すとん、と突然鋭い刃物が外側の世界を切り落とすように。
ああ、またなにか、こいつの中で始まったんだ。
しおんはもう慣れたものだが、普通は切り離された側は面食らうし、目の前にいるのに軽んじられたようで、傷つく者もいる。
社内に敵が多かったのは、そのせいもあるのだろう。だが本人も最近は結論に至った経緯を事務所に貼りだすなどして気をつけているらしい。
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