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「――社長」  どうしてか突然ケチャップライスが喉につかえたように飲み下せなくなったとき、野々宮が静かに近寄ってきた。 「お食事中すみません」 「まったくだ」  古い付き合いらしい野々宮に甘えているのはわかるが、偉そうな態度に腹が立つ。思わず野々宮に同情心がわいて「あんたは、メシは喰ったの」と訊ねていた。 「まだだけど、あとでちゃんと食べるから大丈夫だよ。有り難う」  次々に新しい取り組みを打ち出すのは龍郷だが、実際実務的なことの差配をするのは野々宮だ。今までの付き合いの中で、野々宮が立場上龍郷を優先させて自分のことを後回しにしているのは察しがついている。 「これ……食いかけだけど」  腹が減ると思うような力が出せないことは、ここにいる誰よりもわかっているしおんだ。今から頼めば給仕されるまでに時間もかかるだろうし、それまでのつなぎにでも……と差し出したオムレツライスの皿を、横から掠め取る奴がいる。 「なにするんだよ」 「これは俺がもらおう。野々宮は新しい物を頼めばいい」  龍郷は、どういうわけかひどく不機嫌な顔をしていた。     
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