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「音楽隊がうまくいったご褒美に一緒に喰おうとかいって、ほんとは食堂がうまく回ってるか様子見のついでなんだろ」
あいつの頭の中はどうよそを出し抜いて龍郷百貨店を自分色に染め上げるかでいっぱいだ。ついさっきだって、一緒にいながら唐突に考え込んで、自分とは別の世界に行ってしまった。
野々宮が自分の食事を頼み、しおんは無事自分の手元に返ってきたオムレツライスにぐさぐさとスプーンを突き立てた。
「様子見のほうがついでだよ」と野々宮はナプキンを広げながら苦笑する。
「昼はなかなか時間が取れないから……でも最近ここに泊まることはほとんどなくなったから、これでもましなほうかな」
「ここに?」
執務室に、ということか。当然だがあの部屋にあるのは来客用のソファくらいだ。もちろんしおんが今まで座った椅子の中で一番上等な代物だが、横になるには小さい。
「じゃあ、あれでも最近は時間があるほうなのか」
去って行った背中を遠くに見ながら言うと、野々宮はくすりと笑った。他の誰でもないしおんに向けられているのがはっきりとわかるのに、なぜ笑われるのかはわからない。思わず眉間に皺を刻むと、野々宮はさらにやわらかく微笑みながら言った。愉快でたまらない、といった様子だ。
「無理にでも帰ってるんだよ。家で寝たいんだそうだ」
「……なんで?」
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