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「なんででしょう?」  そりゃここで寝たら風呂も入れない。龍郷の仕事はただ机にかじりついて判を押していればいいというものではなく、銀行やら得意先やらと頻繁に会っているようだから、身なりを整えるのは大事だ。 ーー結局人は見た目で人を判断するからな。 ツラの皮ひとつで商談を左右することもあるだろう。もちろん龍郷はその辺りをよくわかっていて、いつも洒落た服を着ているし、嫌味にならない程度に香水もつけている。 龍郷家のあの風呂はおそらく最新式で、しおんもいつの間にかすっかり気に入ってしまった。龍郷も毎日入っている。  そういった意味のことを口にすると、野々宮は一瞬黙ったあと、堪えかねたように吹き出した。  なにがそんなに面白いのかわからない。放っておいてオムレツライスをさらに咀嚼していると、野々宮はふと表情をあらためた。 「ずっと謝らなければいけないと思っていたんだ」  謝るって、なにを? 顔を見返しただけで、聡い野々宮は無言の問いかけを感じ取る。 「君を音楽隊に入れることに、僕は初め反対してた」     
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