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 そう、初めて会ったあの夜に真っ先に反発を感じたのは、龍郷の威圧的な態度の他に、羨ましさがあったからだと思う。人と違う容姿を持って生まれてきてしまった自分とは正反対だ。たとえ孤児に生まれついても、あの髪と目があれば〈普通〉に紛れていられただろうと。外国暮らしの話にしたって、金持ちの自慢話の一つ程度にしか考えていなかった。  でも、そうか。  別の世界に行ったら、あいつのほうがはみ出し者、なのか。だから「おまえは世界を知らないだけ」なんて言えるのか。 「まあもちろんただ大人しくいじめられてはいなかったみたいだけどね。勉強も運動もすぐ一番になったらしい。〈元々相手はこっちを舐めてかかってくれるんだから、楽なものだ〉って。普通に普通の成績を収めたところで誰も注目なんかしてくれないけど、劣った存在だと思われてるから、少し頑張れば大げさに驚いてくれる。あいつの手にかかれば、不利であることは有利ってわけ」  金継ぎだ。 欠けたところを、金に変える。  あの頃はまだなにを言われているのかよくわからなかった。でも今ならわかる気がする。  自分の髪の色が、黒かったら? 孤児でなかったら? 人はこんなに熱狂しただろうか。そういえばお抱えデザイナーも、日本画家としては作風が前衛的過ぎてあまり受け容れられなかったところを龍郷に見出されたのではなかったか。龍郷はそういう人間を見つけ出すのに長けている。 ――たぶん、自分がそうだったから。 「ごめん、食事中にちょっと面倒な話だったね」     
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