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 しおんの手が止まっているのを気遣ったのか、野々宮が言う。本当に、世界はくるりと変わってしまった。野々宮のようなちゃんとした大人が、自分に何度も謝ったりする。 「別に、面倒とか……ただ俺は、あんたとか、あいつみたいな家に生まれたら、なんにも不自由なんてしないんだと思ってたから……少し、驚いた」  言ってしまってから、失礼だったかと思ったが、野々宮は微笑むだけだった。普段、どちらかというと険しい顔つきをしていることの多い龍郷の隣でこんなふうにいつも笑みを湛えている野々宮は、いっそう穏やかに見える。でも、その笑みをくるりと裏返した向こうにまだ、誰も知らない野々宮の世界があるのだと、初めて知った。 「それが普通の反応」  しおんが言ったことを混ぜ返すわけでもなく、親しみと寛容のにじむ調子でそう告げたとき、野々宮の頼んだハヤシライスが運ばれてきた。喜色を浮かべてスプーンを手にとって、ぼそりと呟く。 「考えようによっては、僕らは誰でもみんなみなしごなんじゃないかな。……自分の力で自分の望むところにたどり着かない限り。たぶん、永遠に」  
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