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 やっぱりねぐらに戻って大人しく死ぬのを待とうか。自分でもどの程度本気なのかよくわからないままふらりと歩き出すと、さっき女の手から払いのけたキャラメルの箱が足に当たった。拾い上げるとからからと音がして、拍子抜けするほど軽い。開けてみると、中に入っているのはたった一粒。  ――あいつ、こんな程度で。  恵んでやったと、自分より弱い者を見出して己を慰めるつもりだったのか。もちろん一箱五銭するキャラメルは、今のしおんの身の上では簡単に手に入るものではない。たまに掏摸がうまくいって、店主から胡乱げな顔をされながらもてっとりばやく腹をふくらますために買う大福は二銭だ。  めぐまれたキャラメルをすんなり口に入れる気にもならないが、投げ捨てることもできない。いらだちのあとから哀しみが暗く十二階の影のようにのしかかるようで、その場を動けずにいたとき、場違いなほど呑気に舌足らずな声がした。
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