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「あー、しおんー」  みなしご仲間のユウだ。しおんはキャラメルの箱を放った。 「やる」 「え、いいの?」   しおんが頷くか頷かないかのうちに、ユウは包みを解いてキャラメルを口に放り込んだ。まるでそうしなければ誰かに盗られてしまう、とでもいうように。  ま、実際そうなんだけどさ。  この辺りにたむろする孤児は山ほどいる。使いっ走りをして駄賃としてわずかな食い物をもらったり、物乞いをしたり、しおんのようにケチな掏摸をしたりして、どうにかその日を生きている。  しおんは自分の親を知らない。  物心ついたときには宣教師がやっている孤児院にいた。路上よりはいくらかましなそこを飛び出したのは、他の孤児ともめたからだ。ユウも同じ孤児院から逃げてきて、顔を合わせればなんとなくお互い気にかける関係だった。 「じゃあ、おれ、行くね」  「行くって?」  小さくていかにも弱々しいユウは、この辺りをうろついては銘酒屋の女や客に小銭や食い物を恵んでもらうのを得意としていた。つまり仕事はこれからだというのに。  まさかキャラメルひとつで満足したわけでもないだろうに――不審に思っていると、ユウの幼い顔に得意げな笑みが浮かんだ。     
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