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「いや、でも、それは――歌える〈普通の〉子供を集めろってことだろ」  両親が揃っていて、小綺麗な服をまとい、呑気に歌を歌っていられる普通の。  募集をかけている大人たちの想定に、自分たち孤児は含まれてはいないはずだった。なんならこの十二階下一帯がそのものが、そんな大きな店を構えるお大尽には目に入っていない可能性がある。  人はみんなそうだ。自分に都合の悪い物、理解の及ばない物からは目をそらして、なかったことにする。 「無駄だろ。俺たちみたいなのがのこのこ出て行っても、追い返されるのが関の山だ」  思わずきつい口調になると、ユウは口を尖らせた。 「なんの山だか知らないけど、おれは行くから!」 「おい――」  言うが早いか、夕暮れの中を駆け出していってしまう。元々ユウは小さくてすばしこい上、こちらは熱がある身だ。重い体を無理矢理励まして後を追った。 「待てって!」  吐き気と同時にいら立ちが胃の底からこみあげる。  百貨店なんて、そんな奴らが俺たちみたいな孤児を相手にするわけがないだろう? なぜそれがわからない。  なぜそんな無駄な望みを持つ。なんにもしないでいるよりずっと傷つくことになるのに。     
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