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 どうせ落胆した小さな肩をなだめすかすことになるのだ。だったら最初から引き止めておいたほうがいい。  十二階下から六区へ走り抜けると、わずかな距離だというのに道行く人波の気配も変わる。前者が後ろめたさを抱えながら訪れる場所なら、後者は大東京一の行楽地。映画館や芝居小屋が建ち並び、文化人も訪れる。  瓢箪池の水面には辺りのガス灯りが映り込んでうす青く漂っていた。そのほとりに煌めく映画館や寄席の並ぶ中へと、ユウの姿は吸い込まれていく。 「なんだおまえら――」 「すぐ出る!」  木戸に立つ男に叩きつけるように告げて中へ入った。夜の演目の前の空き時間を利用しているのか、客席に人は数人しかいないようだった。おそらくは百貨店の関係者。そして、〈普通の〉家の親たちだろう。 「なんで、なんでだめなの」  ユウの幼い声をたよりに暗がりを抜けて、舞台袖にたどり着いた。案の定劇場の人間に捕まって、押し問答している。 「歌える子供ならいいんでしょ? おれ、歌えるよ。ら~」 「うるさい! おい、誰だこんな小僧を中まで入れたのは」     
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