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翌日、しおんは音楽隊の練習に参加していた。
――大人しく口ぱくぱくさせてりゃ食うものと寝るところに困らないんだ。
しばらく様子を見るのも悪くない。どうせ行くところもない身の上だ。
音楽教師は、龍郷に雇用されている手前なのか、しおんにきつく当たるようなことはなかった。そういう意味でのやりづらさはなかったのだが、困惑したのは渡された楽譜というやつだ。
なんだ、これ。
文字なら、最低限ではあるが読める。孤児院で教えられたから。だが、そのかろうじて読める文字の上に文字より幅をとって、五本の線とおたまじゃくしのようなものが描かれているのはなんなのだろう。
ためつすがめつ眺めていると、は、と馬鹿にするような笑いが聞こえた。
「おまえ、まさか読めないのか?」
昨日とっくみ合いになった少年だった。まだ懲りないらしい。一瞬滾る血に任せて再び手を出しそうになったとき、教師がピアノを弾き始めた。これまで音楽になど興味を持ってこなかったしおんだが、教師の巧みな指先から紡ぎ出される繊細な音色を耳にすると、不思議と攻撃的な気分をそがれてしまう。相手の少年もそうなのか、不満げにしながらも黙った。
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