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 その日以来、しおんの生活は一変した。  龍郷に拾われた日から衣食住に困らなくなって、それだって大きな変化であったのに、今度は今まで自分を取り囲んでいた空気や景色ごと舞台の早変わりのようにくるりと差し替えられたような気がする。ほんの一瞬で。  他店より大人びた演出は見事に当たって、今や龍郷百貨店音楽隊はすっかり日本橋名物だ。  すると、音楽隊の連中がちょっかいを出してくることもなくなった。  昼夜一回ずつの公演には、買い物客はもちろん、わざわざそれだけのために足を運ぶ者もいる。飽きられないよう新しい曲をどんどん覚えなければならなくなったせいもあるだろう。  そもそも寮まで用意してみっちり仕込んだ演奏の実力は後追いでできた他店の付け焼き刃な音楽隊の非ではなく、しおんの話題につられて見物に来た買い物客が、帰りには別のお気に入りを見つけて帰るという現象も生まれていた。  そうなってしまえばもう、内部でいがみ合っているのは得策でないと少年たちも悟ったのだろう。一番つっかかっていた例の少年も、信奉者が増えるにつれてしおんにかまうことはなくなっていった。     
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