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 日本橋まで向かう道は、酷いありさまだった。 建物は倒壊し、道の所々には横転した路面電車がそのまま放置されている。運転手が予想していた通り線路の周りに敷設された木煉瓦にはあっという間に火が回ったらしい。中には丸ごと炎に包まれている車両もあった。  焼け出された人々がほうぼうで呻き声を上げている。   ーー とにかく、線路沿いに行けば店にはたどりつけるはず。  本来ならそう遠くないはずの距離も、熱風で舞い上がる火の粉を避け、瓦礫を避けとしていると、遅々として進まない。  炎によって風が巻き起こることを、しおんは初めて知った。予想外の方向から火の粉が舞い落ちる。 「 ーー!」  燃え上がりそうになる上着を必死で払った。どうにか火は消えたものの、焦げは出来てしまった。この日のためにと野々宮から渡された物だったが、きっと見立てたのは龍郷だ。しおんの瞳と同じ色の、上品なブルーグレー。寸法も、まるで直接体に這わせたようにぴったりの。  やっとの思いで日本橋までたどり着く。橋の向こうに佇む百貨店のいつもと変わらぬ姿を見ると、今頃になって膝が震えた。  無事だった。  あいつの店 ーー 無事だった。     
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