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石田さんはヤクザだ。紗英にはそう言う顔を見せることはないが、花屋のオーナー桃田さんは「住む世界が違うんだよ。付かず離れずがベスト」と言い切る。
「桃田の野郎。アイツだって俺が手を貸してやったのに、生意気なヤツだな」
桃田さんの牽制を聞いても、石田さんは一向に意に介さない。ヤクザを好きな奴なんてろくでもないから、嫌われるのが普通なんだそうだ。
「私は好きですよ」
紗英が最後の一口を食べきって言う。
「ん?」
勝手に色々思い出して言ったから石田さんには話の筋が見えていない。若い頃はモテたと本人が話していた通り、なんでもない返しが妙に心惹かれる。
「世の中の人が何と言おうと私は石田さんが好きだなぁって。ケーキくれるし」
最後は照れ隠し。石田さんが刻まれた皺を更に増やして笑う。
「お前は見る目がないよな。だから変な男に引っ掛かる」
「余計なお世話です」
「イタリアンのシェフ」
紗英はそれだけで一瞬にして不機嫌になる。それでも石田さんはお構いなしに続ける。
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