五年

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 とりあえず、サエは生きている。生きていると信じていたが、やはり生きていたかと胸を撫で下ろしていた。  新宿か……。  そこにサエが居るのなら案外近くに居たんだな。  壱は大学入学を機に東京で一人暮らしを始め、就職先もそのまま都内だった。神奈川の実家から通えたのに敢えて家を出たのは、サエの居ないあの街から離れたかったことが大きい。  大学時代、ふと駅でサエに似た顔を見たとき、足を止めることがあった。でも居るはずないじゃないかと頭を振ったりしたが……。  壱は手首につけてあるメタリックの時計を外しながら、長い時間の喪失を感じてため息をついた。  サエにはよく分からない男がついている。あれから五年だ。どんな風に変わったのか……想像もつかない。  腕時計が揺れる度にカチャカチャと鳴る。胸に空いた空洞は、空っぽでも痛むのだと五年前に知った。今も塞がらないその穴に痛みが走る。  あの時どうしたら良かったのだろうか。いつだって問いは湧いて来るのに、答えは見出せぬまま。とうとうサエと会えるかもしれない。そうしたら次はどうしたらいいのだろうか……。答えがまだ出ていないのと言うのに。
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