五年

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 壱としては聞きたいことはあまりなく……いや、サエのことは聞きたいのだが、なんとなくこの男に教えて貰うという事が癪に障るような気がして、口を閉ざす。  男は背もたれに乗せていた手を下ろし、自分の膝の上に腕を乗せ、前屈みで壱を見る。顔からネクタイ、肩や胸、着けている時計までじっくり品定めされているのは不快だった。 「悪くないね。まぁ、勤め先も一部上場だしな。顔もまあまあってところだ」 「そりゃどうも」  内心、勤め先を知っていることに小さな不安を感じたが、それは最後の容姿へのコメントにムッとして、上手いこと隠せた気がする。身に付けている物で値踏みをされたことは普通でもやりうる事なのでいいのだが、顔は関係ないだろうと腹が立った。まぁ、こんなにあからさまに値踏みをされることは普通ないので、全てが不快と言えばそれまでなのだが。 「怒るなよ。顔にですぎだ」 「そうですか?」  楽しそうな男に素っ気なく返すが、男にはあまり通じないようで、機嫌よく足を組み替えたりしている。右から左に、かと思えばまた直ぐに右に。 「『いっちゃん』さぁ、紗英とはどんな関係?」     
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