五年

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 そこで先ほど男に何か指示されていた中年の女性が飲み物といわゆるエビせんと呼ばれるピンク色の揚げた菓子を運んできた。それらをぶっきらぼうにテーブルに置いて、さっさと姿を消した。 「紹興酒といいたいとこだが、今夜はまだ予定があるんでビールだ。『いっちゃん』に乾杯」  テーブルに置かれたコップはステンレス製で中身は泡が飛び散った感じでビールだとわかる。男は一つを持ち上げ勝手に乾杯し、グイグイと中身を飲み干していった。 「飲みなよ。なんでもないビールだ。恐れるなよ」  バカにされたので、ムッとしながら手付かずのステンレス製のコップを取り上げた。それを眺めながら男はまた話を再開させた。 「俺はな『いっちゃん』。色々あって、今の住まいを引き払うんだよ。って事はだ、一緒に住んでる紗英は住む場所を失うんだな」  口につけたステンレスのコップはやたら冷えていてゾクリとする。でも、壱は中身を傾けてビールを煽った。知りたくない事実を流してしまいたかった。 「花屋はグレーだ。まぁ、悪くはねぇよ? 黒じゃないしな。だが『いっちゃん』は白だ。紗英も今なら白いままなんだよ。わかるか? 染まる前にお前に託すつもりなんだが、どうだ?」
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