五年

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 飲み込んだビール同様やたら苦い過去。サエは自分の元から消えた。守りたかったし守っていたつもりだったのに。 「どうだと言われても本人次第じゃないかと」  壱の返事に男はあからさまに嫌そうな顔をした。 「任せろくらい言えないのかよ。紗英が男相手の商売に身を落としてもいいのか? いや、商売だけじゃねぇよ。あそこに居たら周りはろくでもない男ばかりだ。意味わかるだろ?」  わからなくもないが、サエは自分から去っていったのだから、頼りたくないのではないか。頼りたいならあの時だって……。 「まあ、いいや。『いっちゃん』を紗英が大事にしてる風だったから、こうして会ってみたが腑抜けたヤツには用はないしな。なるほどねぇ、だから紗英は誰にも頼らずこんなところに出てきたのか」  男の言葉は逐一腹が立つ。それはそうだ。壱が悩んできたことをズバズバ指摘してくるのだ。痛いしムカついた。 「わかったよ! サエがなんと言おうと、俺はあんたらから引き離す」 「仕事は続けさせてやれよ? 花屋の仕事は気に入ってるんだから」 「あんたがグレーだって言ったんじゃないか」 「まあねぇ」  なんなんだよ。心で悪態をつくのは相手が怖いわけではない。面白がっていると言わんばかりの目尻を見たからだ。男はあくまでも会話を楽しんでいるし、壱を怒らせようとしているのが伝わってくるのだ。
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