201人が本棚に入れています
本棚に追加
飲み込んだビール同様やたら苦い過去。サエは自分の元から消えた。守りたかったし守っていたつもりだったのに。
「どうだと言われても本人次第じゃないかと」
壱の返事に男はあからさまに嫌そうな顔をした。
「任せろくらい言えないのかよ。紗英が男相手の商売に身を落としてもいいのか? いや、商売だけじゃねぇよ。あそこに居たら周りはろくでもない男ばかりだ。意味わかるだろ?」
わからなくもないが、サエは自分から去っていったのだから、頼りたくないのではないか。頼りたいならあの時だって……。
「まあ、いいや。『いっちゃん』を紗英が大事にしてる風だったから、こうして会ってみたが腑抜けたヤツには用はないしな。なるほどねぇ、だから紗英は誰にも頼らずこんなところに出てきたのか」
男の言葉は逐一腹が立つ。それはそうだ。壱が悩んできたことをズバズバ指摘してくるのだ。痛いしムカついた。
「わかったよ! サエがなんと言おうと、俺はあんたらから引き離す」
「仕事は続けさせてやれよ? 花屋の仕事は気に入ってるんだから」
「あんたがグレーだって言ったんじゃないか」
「まあねぇ」
なんなんだよ。心で悪態をつくのは相手が怖いわけではない。面白がっていると言わんばかりの目尻を見たからだ。男はあくまでも会話を楽しんでいるし、壱を怒らせようとしているのが伝わってくるのだ。
最初のコメントを投稿しよう!