五年

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 男は皿から一枚のエビせんを取り、それをばりっと唇で割るとバリバリと噛んでいく。 「なぁ、知ってるか? 神は大抵、一度失敗しても、もう一度チャンスをくれるもんだ。二度目のチャンスをモノに出来ない人間に三度目はないよ?」 「あんたが神なのか? そりゃ随分安い神だな」  男はふっと笑いを漏らすと、確かに。と機嫌良く答えた。そして着ていた背広の内ポケットを漁り、取り出した鍵を二人の前にあるテーブルの上へ置いた。 「これで部屋に入れる。部屋にはスーツケースが一つあるはず。それが紗英の荷物だ」  なんの変哲もない鍵を黙って見下ろしている壱に、男は続ける。 「部屋の荷物は引き払ってあるから、住める状態じゃねぇ。そして紗英には行く宛もねぇ。まぁ、唯一あるとしたら花屋だな。ホスト上がりのイケメンオーナーに泣きつくか……急に現れた幼なじみの『いっちゃん』に助けられるか。いや、紗英は街を徘徊し、またキャバクラのスカウトに捕まるかもしれないな。五年前みたいに」
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