五年

21/37
前へ
/187ページ
次へ
 言い終えると男はスマホを取り出して、なにやら操作をしだす。すると間もなく壱のスマホにメールが届く。地図付の住所だった。 「早くいきなよ。紗英はそろそろ仕事から帰ってくるぞ。何もない部屋に愕然として、荷物を持って街を彷徨うかもなぁ」  壱は男をひと睨みすると、テーブルの上にある鍵を取った。急展開だが、男は冗談を言っている感じではない。慌てて掴んだコートとリュック。 「三度目はないぞ」  男は座ったまま壱を見上げて笑う。けれど、目は全く笑ってはいなかった。  壱はもう男を見ていなかった。サッとコートを羽織ると、リュックを背負って走り出す。次こそはサエを捕まえなければ。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

201人が本棚に入れています
本棚に追加