五年

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 タクシーで移動した壱のアパート。東京だと言うのに緑が点在しているのが車窓から見てとれた。次々に過ぎていくのもネオンの光ではなく、家の軟らかい明かり。  駅前に停車したタクシーから降りる。駅前はコンビニやファミレス、居酒屋があるが、それも長くは続かない。小さな駅の静かな駅前。  壱はタクシー代を払うと、運転手と共にトランクに周りスーツケースを受けとる。私が持つよ。小さな声に壱は手をそっと翳して制した。  カラカラとアスファルトをスーツケースが転がされていく。壱が先頭でスーツケースがそれに続き、サエが後を着いていく。  壱のアパートは駅から五分、三階建てでお洒落ではなさそうな、それでいて古臭い感じでもない、いっちゃんが選びそうな機能性を優先した建物だった。  スーツケースを横長に持って階段を上がるいっちゃんを見上げながら申し訳なさでいっぱいだった。 「ごめんね、重いのに。もしかして、三階だったり?」 「残念ながらその通り。ま、これくらいなら平気だから」  タクシーの中では互いに口を利かなかった。サエも何を話して良いのかわからなかったが、いっちゃんだってわからなかったのだろう。長い沈黙を破ってくれたのは、スーツケースのお陰と言っていい。  寒い夜にいっちゃんはサエのスーツケースを苦労して三階まであげてくれている。しかも、五年ぶりに会うのに、こんなことをさせられて、さぞ迷惑だろう。
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