五年

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 しまった。  壱はコンビニまで来て、サエをやはり連れて来るべきだったと気がついた。また、居なくなってしまうかもしれない。  急いで買い物かごを掴むと、パンを適当に数個、次に幕の内弁当と、三色になったそぼろ弁当をかごに入れた。視界に入ったサラダも入れ、流れでパイナップルとメロンが入ったカットフルーツのカップ、インスタントのスープにペットボトルのお茶を数本。  あとは……店内をぐるりと見て回って、歯ブラシをかごに放り込んでレジに向かう。  コンビニでこんなに大量に、しかもこんな短時間で買い物をしたことなんてなかった。スマホを翳して会計を済ませると、袋にいれて貰う間もやきもきしていた。  居なくなるなよ。念じながら、いや大丈夫だなんて、自らを落ち着かせてみたりする。スーツケースはでかいし、三階から下ろすのに手間取るから、部屋を出ていくにしたって時間がかかる。でも、もしかすると荷物を置いて居なくなる可能性も……。  渡された袋を掴んで急ぎ帰ろうとしたら、レジ台から下ろされた袋に一気に重量がかかって腕が抜けるかと思った。  気を取り直して、レジ袋を両手に下げ、大股で急ぎ戻る。  サエが居るんだ。あのサエが。  あの日忽然と姿を消したサエが俺の部屋に今、居る。  壱は一刻も早く確認したかった。あんなに探し回ったサエが部屋に居ることを。
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