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お箸をもって白米を口に運んでいったサエが手を止める。箸を置いて、着ていたタートルネックのセーターの腕を捲っていく。
「見て、私は筋肉ついた」
白い肌に確かに筋肉の筋が出来ていた。でも、壱は視線をエビフライに移して、それを口に放り込む。
「花屋で働いているの。筋肉つくんだ」
紗英は自分で仕事の話をし始めたのに、その後鬱いだ顔付きになって、再び弁当をつつき出す。
壱も放り込んだエビフライの尻尾を引き抜いて、黙ってモグモグと口を動かしていく。
食事を終えると交互にシャワーを浴び、どちらがソファーで寝るか揉めた後、じゃんけんで勝った紗英がソファーに収まり明かりが落とされた。
紗英は借りた毛布を引きはあげて頭から被ってみた。エアコンは付けっぱなしにしてくれているから、寒くはない。ただ、考える時間が出来ると凍えそうなほど悲しかった。
石田さんとは五年も一緒に居たのに。そう思うと止まっていた涙がくっと鼻の奥を刺激し出す。
確かに何も聞かないのがルールだった。だからって、理由も告げずにいなくなるなんて……。
そんな風に思うとぞわっと寒気が走る。自分だってやったことなのに、棚にあげそんなこと考えるなんて。
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