五年

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 上半身を起こした状態で下を向きいっちゃんが呟く。 「俺が頼りないから……」  紗英は驚いて「違うよ!」と否定した。  するといっちゃんが大きなため息を吐いて頭をくしゃっと掻いた。 「確かに世の中にはもっと頼り甲斐のある男は……」 「違うってばいっちゃん!」  口を閉じたいっちゃんはチラリと紗英を見たが、ごめんと口にしたまま、また黙ってしまう。 「謝らないで。私が、私が悪いんだから。それにね、本当に違うんだよ? 私は今度こそ一人でちゃんと生活できるようになりたいの」 「……うん」 「誰かと住んでダメになったら、また行く場所がなくなるかもしれないから……それは悲しすぎるから」  いっちゃんは直ぐには何も言わなかった。頭をまた掻いて言いたいことを飲み込んだように感じたのに、最終的に顔を上げて紗英を見た。 「とにかく、居なくなんないで……住む場所とかちゃんと教えて欲しい。あと、定期的に顔を見たい」 「……うん」 「ウザいかもしれないけどさ、居なくなられるのは……やっぱりしんどいから」  苦渋に満ちた表情を見ていると、紗英は後悔で押し潰されそうになる。いっちゃんにこんな顔をさせるなんて。 「ごめん、ごめんなさい」 「謝って欲しい訳じゃない。ただ消えないで欲しいだけ」
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