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重い言葉だった。責めることを極力回避しようとしてくれているからこそ、伝わるいっちゃんの思い。
紗英にも十分すぎるほど理解できた。
置いていかれるのはツラい。理由も知らされず、一人だけ残される絶対的な虚無感。
それまでの時間はなんだったのか。重ねてきたやり取りは意味がなかったのか。
母はなぜ私を育てたのか。なぜ同じように育てた弟だけを連れていったのか。
父と過ごした親子としての時間は嘘だったのか。他に家族を持った時、なぜそこに加えてくれなかったのか。
石田さんはどうして何も告げずに消えたのか。
答えがわからないのは苦しい。しかし、もし……答えが最悪なものだったら……。
『必要なかったんだ』
そんな言葉を吐かれたらと思うと。
「サエ?」
自分の中に綴じ込もって考え事をしていると、いっちゃんが心配そうに見つめていた。
本当はいっちゃんの方が悶々としているだろうに。
「ああ、ごめんね。消えないよ。どうしたらいいかな? あ、仕事先の住所……いや、それよりスマホの番号教えるね」
いっちゃんは表情を溶かして微笑み、ベッドの端に置いてあったスマホを手にした。
「全部教えて。それと、仕事行くなら……俺も仕事先まで着いていきたい。信用してないわけじゃないんだ。ただ、確認しておきたくて」
「うん」
紗英にはその申し出がちょっと嬉しかった。勝手かもしれないけれど、繋がっていてくれようとするいっちゃんに喜びを感じていた。
やっぱり、いっちゃんは誰よりも優しい。いつも一緒に居てくれたいっちゃんのまま。
改めていっちゃんと言う存在の偉大さに心強さを感じていた。
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