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新生活
いっちゃんは宣言通り、紗英が働いているの花屋まで来て、オーナーである桃田さんに自己紹介までして帰っていった。
と言うとひどくあっさりしているが、実はいっちゃんのアパートを出る前に二人には一悶着あった。
スーツケースを置いていくべきだと主張するいっちゃんと、スーツケースを持っていくと言った紗英。また今夜も泊まればいいといっちゃんは言い、そう言うズルズルとしたことをすれば、またなあなあになって依存してしまうからと頑張る紗英の言い争い。結局、スーツケースを置いていく事になりもう一晩だけいっちゃんちにお世話になることになったが、それ以上は絶対に泊まらないと紗英が宣言して、なんとか折り合いがついた。
実のところ、そんな言い争いも紗英には少しだけ楽しかった。石田さんは一方的に何でも決めたし、紗英は意見を言うような立場になかったから。そういえば、父に対してもそうだったかも。言いたいことを言える相手は昔からいっちゃんしか居なくて、そんな相手が目の前にいることが嬉しくて仕方ない。
「もっとさ、メソメソしてるかと思ったよ」
比較的静かな土曜日の午前中。桃田さんは売れ残りのバラで作ったドライフラワーを一本一本選別していた。
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