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「石田さん、居なくなったでしょ?」
桃田さんが石田さんが消えたことを知っている事が意外だった。二人がそこまで親しそうには感じなかったから。屈んで床に落ちた葉を拾っていた紗英は驚いて立ち上がる。桃田さんはそれをチラリと見ただけで、作業を止めずに話していく。
「前から噂になってたんだよ。『Xデー』が近いってさ」
「『Xデー』ですか?」
「そう。実際刑事も来たしね。逮捕近しって感じ。自主したらしいよ、殺しを二件。いや、一個は未遂だけどね」
「殺し……」
耳を疑う内容に絶句する紗英に、桃田さんは顔を向ける。
「あの人、ヤクザでしょ。しかもかなり態度でかかったじゃん?それにはそれ相応の理由があるってこと。若い頃に組にとって邪魔な人間を殺し損ねたんだよ。まぁ、噂だけどね。それが未遂。相手は植物状態で未だに病院にいるらしい」
組にとっては功労者って訳。と、桃田さんは長い指で一本バラを掴むとゴミ箱に棄てた。パリパリの紫色したバラは要らない葉や茎に混ざると、なんの価値もないゴミに成り下がっていた。
「もう一人……」
殺したのか。本当に、石田さんが。掴めない人ではあったけれど、紗英には優しかった。その石田さんが……。
「彼女らしいよ。ずっと行方不明だったんだってさ。でも、居なくなる前に既に薬中で見る影もなかったらしいけど。紗英ちゃん見たことないだろうけど、末期のヤツはね、マジで酷いんだ」
「酷い?」
「そう。見た目はガリガリ、肌はボロボロ。頭ん中はいっちゃってるから、話になんない。目なんか死んじゃってて人前には絶対に出せない感じ」
桃田さんはまた出来映えが悪いバラを取り、ゴミ箱に捨てた。
「噂じゃ綺麗な人だったらしいけど、弱すぎたんだなぁ。誘惑に負けて自らジャンキーになっちゃったって話。俺も好きな女がそんなんになったら殺しちゃうかもなぁ」
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