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「そう言う訳にはいかないんです。彼女居るみたいだし、五年ぶりですよ? 音信不通だったのに、急に連絡来て住む場所がないからって転がり込まれたら嫌じゃないですか」
居るよ、そんなヤツ。桃田さんは軽く流して箱を閉じる。つるりとしたケーキの箱に似ているそれを見ると、紗英は石田さんが買ってくれたケーキを思い出した。
「俺なんかホスト時代の同僚? ってやつが急に来て金貸してってさ。 顔は何となく見覚えあったけど、名前すら知らないヤツに百万の借金申し込まれた」
「桃田さん、それと一緒にしないでください。ここの事務所で暫く寝泊まりしちゃダメですか? 部屋が決まるまで」
箱を抱えた桃田さんはムリ。と、一刀両断する。
「狭いし風呂ないし、ムリだから。一日くらいならいいけど」
そこへ入り口から入ってきたアルバイトの林さんが顔を出す。細身のツーラインパンツにゆるゆるパーカーと言う出で立ちに、ツーブロックショートヘアはさながら韓流アイドルみたいに見える。しかも、林さんは綺麗な顔立ちの女性なのに、振る舞いも格好も男性っぽい。
「おはようさん」
「おせーよ。五分遅刻ね」
「昼休憩から引いといて」
紗英よりこの店で働いている期間は短いのに、やたら桃田さんとの垣根がない。
「おはようございます」
「ん、紗英ちゃんどうした? 桃田にヤられた?」
「ナゼにそうなる。俺は仕事は仕事。しっかりわけてんのに」
まだ店のエプロンもしていない林さんは冷たい手で紗英の頬をプニプニ押す。
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