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「元気ないからさ」
「あ、林さんさ」
足を止めた桃田さんに顔を向けながらも、林さんはまだ紗英の頬を押している。
「んー?」
「林さん、シェアハウスじゃなかった?紗英ちゃん住む所なくなっちゃったんだよ。空きない?」
「石田のオッサンは?」
プニプニを止めて紗英に問う林さんの睫毛は長い。
たまに店へと来ては適当に花を買っていた石田さんを林さんも知っている。購入し花はだいたいそのままどこかのキャバクラ店へと配達されるので、石田さん的には単なる付き合い程度の意味合いだったはずだ。金額は万単位なので、紗英にしたら驚きだったが、そこは歌舞伎町、紗英も次第に花代がそこいらの家賃と同等でもびっくりしなくなっていた。
「居なくなりました」
紗英が力なく答えると横から「逮捕されたんだよ」と口を挟む。林さんはそれに驚く訳でもなく「ふーん」一言だった。
「あるけどさぁ、五万位するよ。しかも、ここから電車で三十分」
「安いじゃん。ねぇ、紗英ちゃん?」
「安いです」
林さんは肩をあげてリアクションを取ると、紗英の頬を弄るのをやめた。
「何でも共有だからね、気は使う。ぼろぼろのアパートに同じ値段で入った方がましなんじゃない?」
「ぼろぼろったって、その値段で探すのは難しいだろ」
紗英の代わりに桃田さんが答えたところで、店頭に若い女性客が姿を表す。桃田さんは持っていた箱を紗英に渡すとさっさと客の元へ行ってしまった。
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