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林さんは少し困った顔を見せたが直ぐに元のクールな表情に戻る。
「んじゃ、今日仕事終わりに見に来る?見て、問題なければ契約したらいいんじゃない?」
「はい」
住む場所に目処がたって少し気が楽になったところに林さんが「まぁ、元気出しな。あたしは石田のオッサンのところに居るよりいいと思うよ。感じよくしてたってヤクザはヤクザ。住む世界が違うし、ああ言うのの近くに居るとろくなことないから」と背を向ける。
「とりま、事務所行ってくる。エプロン、エプロン」
去っていくシャキッとした背中を見送りながら、どうしたって気持ちは落ちていく。
石田さんはお世話になった人だ。みんながなんと言おうと、紗英には恩人だと言う事実は変わらない。だから、悪く言われたら悲しい、しかし石田さんがヤクザであることは事実で、常識的に考えれば皆は紗英を心配してくれているだけのこと。だから、言い返すこともなく、ただ少し俯くだけ。
私は好きです。
心で呟くだけの小心者でごめんなさい。
客がまた入って来たので顔を上げた。働かなければ生きていかれないのだから。
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